「林縁の姫君」2page




 お城の大広間では、王様がニコニコと贈り物を見ていました。一度にこんなにたくさんの美しい物を見るのは、王様と言えども初めてです。
 お金持ちや異国の王子様が、自分たちの持ってきた物がどんなに素晴らしい物か、一生懸命説明しています。誰も彼も、自分が持ってきた贈り物が一番美しい、姫にふさわしいのは私だと、主張して譲りません。次々に素晴らしい贈り物と求婚者が紹介されていく中、退屈して側に座っていたお姫様は、ふと、贈り物の中に小さな花を見つけました。
『まぁ!なんて可愛らしい事。いったいあの花はどなたの贈り物かしら?』
お姫さまはじっと花を見つめました。本当は花の側へ行きたかったのですが、お姫さまというものは勝手に動き回ってはいけないものなのです。それで、早くあの花とそれを持ってきてくれた殿方の番にならないものかと、そわそわしながら待っていました。
 ところが求婚者達が一通り紹介終わり、表を見ながら侍従が「今日は終わりです」と告げると、お姫さまはすっかり慌てて、思わず大きな声を出してしまいました。
「王様!まだ終わりではありませんわ。あそこにとっても綺麗な花がありますもの!」
 言われて初めてみんなはその花に気がつきました。そして、思わずうっとりと見とれてしまったのです。
 王様も感嘆して、
「おお、これはなんと美しい花じゃ。姫の側に置いても、ちっとも見劣りしない。この花を持ってきたのは、どちらの貴公子じゃな?」
と、居並ぶ人たちに向かって言いましたが、誰も返事をしません。互いの顔を見合わせるばかりです。
 侍従の表にも載っていませんし、門番に聞いても答えられません。
「どうして名乗りでないのじゃ?これほど美しい花の贈り主だというのに。」
 王様が重ねて言ってもやはり誰も出てきません。それはそうですよね、だって木こりは今頃森で一生懸命働いているところですもの。でも、お城の人は贈り主がいるとばかり思っていますから、王様はさらにこう言ったのです。
「この花は今まで見たどんな花よりも美しい。持って来た者はどうか名乗り出て欲しい。この花の贈り主は姫の結婚の候補になるだろう」
 そうしたらですね。ついに名乗り出てきたのです。木こりが?いいえ、違います。名乗り出たのは遠くの国からやってきたお金持ちの男なんです。
「…おそれながら申し上げます、王様。その花はわたくしが持って参りました」
 このお金持ちは元々お金をかけて豪華な彫像を作らせてきたのですが、王様の興味が花に行っているのを見て、渋い顔をしていました。ところが花の贈り主が誰も出てこないのをいい事に、贈り主になりすましてしまおうかと思ったのです。
「なぜすぐに名乗り出なかった?」
 お金持ちの男は頭を下げたまま、そっと辺りをうかがいました。やっぱり誰も名乗り出る様子はありません。しめしめ、とお金持ちの男は思いました。
「はい王様。申し訳ございません。実はこの花は私の国でも特に珍しい花でございまして、百年に一度、それも険しい岩山の頂にしか花を咲かせないものでございます。それをようやく手に入れてお持ちしたのでございますが、実はこれが貴重な薬にもなるという言伝えがございまして…。わたくしの母が今胸を患っておりまして、煎じて飲ませてあげられないものか、と悩んでおりました。けれどこれほどに美しい花であれば、陛下への贈り物にする事も当然。そうして悩んでいたものでございますので、つい言いそびれてしまったという訳なのでございます」
 お金持ちは王様やお姫様がこうした話に弱い事を知っていました。母親が病気、というのは元から用意していた話でもあったので、それにひっかけてこんな事を言ったのです。王様とお姫様はすっかり信じて、涙を流しました。
「そうであったか。それではこの花はそちの母上に差し上げるがよい。姫よ、そなたはどう思うか?」
「それがよろしゅうございましょう、王様。けれどこんな袋の中では、花も窮屈でしょう。きちんとした鉢に植え替えて差し上げるのが宜しいかと存じますわ」
「うむ、さっそくそうしよう。庭師を呼べ」
 そんな訳で花は庭師に渡され、綺麗な鉢に大切に植え替えられて、城中で一番の場所に一時置かれる事になりました。それはお姫様の部屋です。
 広間では今日の贈り物は終わりとして殆どの人が帰されました。そして作り話をすっかり信じてしまった王様は、お金持ちの男と食事を一緒にとることにしたのです。王様と一緒の食事、というものは、並大抵ではありません。人々は、これはお姫様をもらうのはこの男になってしまったか、と噂しました。
 お金持ちの男は太っていて、宝石や指輪をじゃらじゃらさせていて、姫は食事をとりながら、花は美しいし心も優しい人みたいだけれど、こんなおじさんの所へお嫁に行くのはちょっと嫌だわ、とこっそり思いました。
 食事の間中、王様もお姫様も、お金持ちの男の話を聞いていました。花を取りに行くのにどんなに大変だったか。それを自ら行って取ってきたと、身振り手振りで話したのです。それにしてもなんて図々しい男でしょう!


 その晩、の事です。
 お姫様は部屋で一人きり、なんて綺麗なのかしらと、花を見ていました。
「あなたは本当に綺麗な花ね。すぐに会えなくなってしまうのが本当に残念だわ。あなたはお薬になってしまうのですって。こんなに綺麗に咲いているのに、可哀想…。それにしても、あのお金持ちのお話、本当かしら?あんなに太っていて、よく山登りなんてできたものだわ。ね、そう思わない?」
 すると、花がゆらゆらと揺れて、それはまるで頷いたようでしたので、お姫様はそれを見て
「まあ!あなたもそう思うのね!かわいいお花さん」
と、にっこりして続けました。
「それに凄いおじさんなのよ、あの人は。このままでは私、あの人のお嫁さんになってしまうのかしら?王様は綺麗なものを愛する人は心も綺麗なんだよ、とよくおっしゃるけれど、あの人はあんまりそうは見えないわ。そりゃ、お母様の為に薬を取りに行くなんて、並大抵じゃないとはおもうけれど。でもお食事の間中自慢話していらっしゃるのよ。どう思う?お花さん」
 すると、突然、可愛らしい声が応えたのです。
『あんな話信じちゃダメよ、お姫様』
 お姫様はびっくりしてきょろきょろしました。
『ここよ、ここ。んもう、木こりさんとおんなじ反応なんだから』
 見ると花に可愛らしい小さな少女が座っています。お姫様は目をまんまるにして少女をみつめました。
『あなたがお姫様ね。本当に綺麗だわ、悔しいけど。わたしはこの花の精よ』
と少女はにっこり笑っていいました。
 凄く驚いてたのですが、あまりの愛らしさにお姫様もにっこり微笑むと、花の精が言いました。
『わたしは昨日咲いたばかりなの。昨日まで森にいたのよ。あなたがとても美しいって言うから、だからどんな人かと思って会ってみたかったの。会えて良かったわ。あなたもいい人みたいだもの。わたし、わかるのよ。』
 それで、お姫様はあらためて、不思議に思って言いました。
「森に咲いていたの?さっき信じちゃダメって言ったわね?ではあなたは高い岩山で咲いていたのではないの?」
『そうよ。あの男の言っている事はぜ〜んぶデタラメ。わたし、あんな男、ここに来るまで会った事もないわ。あんまり頭にきたから出て行って”い〜っ”ってしてやろうと思ったのに、どうもこうして姿をみせられる相手は決まっているみたいで、出られなかったの。出られたらあんなデタラメ言うヤツなんて、ただじゃおかなかったのに!大嘘つきだわ!大嫌い!』
 花の精があんまりぷんぷん怒っているので、お姫様はまあまあ、となだめてお水を少し注いであげました。花の精は気持ちよさそうに水を浴びて、にっこりしました。おちついてきた花の精に、お姫様は改めて聞いてみました。
「あなたはそれではどうやってここへ来たの?」
『木こりさんにお願いしたのよ。とってもいい人。私の為に木を切らないでいてくれたのだもの』
 そして、お姫様はこの愛らしい花の精から、木こりの話を聞いたのです。
「まあ…そういう事だったの…。私、その木こりさんに会ってみたいわ」
『じゃあ、一緒に行きましょうよ。元の森へ行ったら、わたしもっと綺麗に咲けるわ。そうしたらあなたよりも綺麗よ。連れていってくれるでしょう?』
「いいわ。王様にお願いして、一緒に森へ行きましょう」
『じゃあ、約束よ』

 翌朝。さっそくお姫様は王様に、花の話をして、森へ行かせてもらえるようお願いしました。王様は最初驚いていましたが、門番が「木こりが花を持ってきたのを思い出した」、と言い出して、それでともかく行ってみる事にしたのです。



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